母の言葉

これまで何度かあちこちで書いたことがあるが、こんな娘を産んだワタシの母*1は、実は人並み外れたコミュニケーション能力の持ち主だ。身内の欲目で言うわけではない。彼女を知る者は誰もが同じようなことを言う。他に特別取り柄があるかといえばそうではないが、そのことだけに関しては、本当にスゴイのだ。


ワタシは高校時代、いじめられてはいなかったが心を開いて仲良くできる友達がほとんどいない時期があり、あまりにも学校が面白くなくて早退、欠席を重ね、挙句には中退しようとまで思い詰めたことがあった。そんな時期に毎日のように母から言われた言葉は

「あんたは自分をよく見られたいと思いすぎて、構えてしまうから逆に人も取っ付きにくく感じるんだ。誰からでも好かれようなんて思わなくてもいい、もっと地を出せ。出したって誰からも嫌われることはない。」

それは親の欲目じゃないのか。とも思ったし、そう言われても別に自分の中に「地を出す/出さない」切り替えのボタンがあるわけでもなく、どうすればいいのかわからないままつまらない高校生活は続いた。


母は最終的には腹を括って「辞めてもいいよ」とまで言ったが、結局高校は辞めずに卒業し、進学し、就職した。


そして、就職後、そしてあれこれ仕事を経験して今の仕事をしている中でも、仕事上での人間関係に疲れて「こんな嫌な奴が」「あんな嫌な事を言われた」などと愚痴を漏らす時の5回に1回くらいは顔を顰めながら言われる言葉がある。

「嫌いな人にこそ、特別よくしなさい!」


彼女はこれを人生の中で幾度となく実践し、その度に「自分を忌み嫌う嫌な奴でも味方につけてきた」という。具体例はこんな感じ。

昔、同じ職場にとにかく自分をライバル視?して毛嫌いしていた女性がいたが、とにかく特別彼女には良くし続けた→彼女が職場を辞めていく頃にはあれこれ相談されるほどの間柄になっており、その人と別れる時には「あなたのことは絶対に忘れない」と言われた

最近たまに行く職場でチクチク意地悪なことを言って周りの人を巻き込んで疎外しようとしてくる人がいるが、その人には特に明るく挨拶したり親切にしていた→最近では向こうから挨拶してきたり、あれこれ気にかけてくれるようになった


そんな母の教えをワタシはこれまでひとつも実践できず、今も、そしてきっとこれからも、一生ずっと実践できないだろう。日々どんなに道を説かれても、やっぱり自分が悪く見られるのは怖いし、怖いからますます余計なことは何も言えなくなるし、嫌な奴には無視を決め込むか牙をむくかだ。
本当、コミュ能力においては最低ダメ人間に育ってしまって申し訳なく思う。
だけどワタシは何一つ受け継げなかった長所をたくさん持っている、いつも人から愛され、人に囲まれながら生きている、そんな母を尊敬する気持ちは確かだから、どうか許してほしい。なんて殊勝なことを書いてみても、母はネットなんてやらないし、いつも家にいればネットばかりやっているワタシを「ネットオタク」と馬鹿にするけれど。ワタシのクラい生活態度を見ては「私のあんたくらいの歳の頃はねえ、毎晩毎晩遊び歩いてたわよ!」と馬鹿にするけれど。そして、ワタシが何度となく言われた上の二つの言葉は、よく考えると微妙に矛盾しているんだけれど。



この記事を読んでいてなんとなく浮かんできた文章です。ありがとう。
http://anond.hatelabo.jp/20070311233844

*1:実は父もだが、諸事情によりここでは割愛