「私のことを好きじゃない人が好き!」

これは、大学時代仲が良かったNの言葉。
「へ!?自分のこと好きじゃないより好きなほうがいいじゃん!」
当時のワタシには、彼女の気持ちは少しもわからなかった。


でも、今ならわかる気がする。
彼女に直接聞いて確かめることはできないから、憶測に過ぎないかもしれないけれど。


Nはいわゆる「モテ」女子でもなければ、「どうしたってモテない」わけでもない、平たく言ってしまえばごく普通の女の子だった。
いつもニコニコしていて誰にでも分け隔てなく優しくよく気が利いて、少しでも仲良くなった人は一般的に見てあまり褒めどころのない人であったとしてもどこか探して褒めるような、そんな子だった。
だから友達は多く、いつもいろんな人の笑い声の中に彼女はいた。


彼女は当時、共通の仲良し男女の中で一番格好良い男子に恋をしていた。
いつもどこか他人とは一線引いているような、少し影のあるタイプ。
彼は仲間として彼女と仲は良かったけれど、女性として興味を持っている様子はなかった。*1
そんなある日、仲間内の別の男子がNのことを好きだという噂が流れた。
彼は落ち着いていて温厚で頭が良く、しかしあまり格好良いとは言えないタイプ。
彼のことを人間としては好きだけど、男性としては興味が持てないNは困惑していた。
それでも温厚な者同士ということもあり、周囲は二人を焚き付けるようなことを言っていた。
Nが本当は誰を好きか、知っている者はごく限られていたし。


そんな状況の中、二人きりで話をしていた時彼女が言った一言がこのエントリのタイトルだった。
彼女らしからぬ強い語気。


今なら、わかる気がする。
常にニコニコしていて、気配りを絶やさない彼女の姿から微かに感じられた「無理」。
笑顔は時折引きつり笑いになり、本当はあまり好きでない人にもお世辞を言っていた彼女。


そこにあったのはきっと、「非コミュ」の深い根。


非コミュ」の根が彼女の中に存在したからこそ、人に嫌われまいと日々精一杯の努力をしていたんじゃないのか。
しかし、恋愛においてくらいは求められるがままを受け入れるんではなく、自分が心から望む相手との関係を望んでいたのではないか。
「好きじゃない人が好き」は極論かもしれないが、「本当に自分が好きだと思える人を追いかけたい」渇望ではなかったのか。
そして彼女が恋をしたのは、彼の誰とも一線を引いていた姿に自分の本当に在りたい姿を見たからだったのかもしれない。


「こんな腹の黒い奴になら話しても大丈夫か」と思ったのかは知らないが、彼女はよくワタシと二人だけで話をする時、嫌いな人の悪口や、このタイトルのような恋愛観を話していた。
どうしてもっと、彼女のことをわかろうとしなかったのだろう。
「嫌いな奴にまでお愛想言わなくてもいいのに」などと時折うっすら毒づいていたワタシなどより、彼女はずっと努力家だった。
彼女とは仲違いをしたわけではないけれど、卒業後とあるきっかけから会わなくなってしまった。
それだけに、いつも無神経な冗談くらいしか彼女に言えなかったことが、本当に悔やまれる。




Say::So? - 好かれることは怖い。
ヘボメガネ一進一退 - 人を好きになりやすい故に、人を好きになりにくい

主にこのふたつのエントリを何度も読んでいくうち、ふと蘇った思い出からこのエントリを書くまでに発展*2しました。深く考える機会が出来て、感謝です。

*1:実際、成就はなかった

*2:変換第一候補でハッテンって出たよ氏にたい